業者さんから提出された見積書をチェックすると、結構な割合で「法定福利費」の記入方法に間違いがあり、訂正してもらうことが多いのです。
そもそも「法定福利費」ってなんのこと?
工事にどのような関係があるのかちょっとわかりにくいですよね。
まずは、そこから説明していきましょう。
法定福利費とは?
法定福利費とは、法律で義務づけられた社会保険や労働保険の会社が支払う分のことを指します。
従業員を雇用した時に「社会保険」と「労働保険」に加入しますが、それぞれの保険料を、従業員と会社が一定の割合で負担することが義務づけられています。
その会社負担分が「法定福利費」になります。
社会保険・労働保険の種類
社会保険は、健康保険、厚生年金保険、介護保険(40歳〜64歳対象)、子ども・子育て拠出金があり、労働保険は、労災保険、雇用保険が該当します。
これらの社会・労働保険によって、従業員の生活や労働、健康が守られます。
会社にとっては支出になりますが、従業員を守るための大切な費用になります。
見積書に記載するようになった経緯
- 平成24年5月社会保険未加入対策推進協議会の設置
平成29年を目途に、企業単位では許可業者の加入率100%、労働者単位では製造業相当の加入状況を目指すことを目標と定める
- 平成24年7月経営事項審査における減点幅の拡大
未加入の場合の減点幅を拡大
- 平成24年11月行政による許可更新時等の確認・指導
許可更新、経営事項審査、立入検査時に加入状況を確認、指導
- 平成24年11月下請指導ガイドラインの制定
元請けは、安全書類等により下請企業や作業員の加入状況を確認、指導
- 平成25年9月法定福利費を内訳明示した見積書の活用
各専門工事業団体毎に法定福利費を内訳明示した「標準見積書」を作成し、下請企業から元請企業への提出を開始
- 平成29年社会保険に未加入である建設企業を下請企業として選定しないよう要請
(ガイドラインは都度改訂されています)
(参照:国土交通省「建設業における社会保険未加入対策の概要」より)
保険未加入問題
法定福利費を見積書に明記するようになったのは、建設業の保険未加入問題を改善するためです。
建設業では、企業が加入すべき保険が未加入のまま現場作業を行う事が多くあり、特に下請企業にその傾向が多く、問題になっていました。
未加入のままだと、建築業にマイナスのイメージがつくだけでなく、従業員の公的な保障がされなかったり、従業員の確保が難しくなったりします。
安心して働いてもらうために、社会保険の加入は最重要事項と言えるでしょう。
法定福利費の内訳の書き方
では、実際見積書に法定福利費を明示するには、どのように書けばいいでしょうか?
法定福利を算出する
法定福利費は、以下の計算で算出されます。
労務費総額 × 法定保険料率 = 法定福利費
法定保険料率は、保険の種類によって都道府県ごとに異なり、また年度ごとに改定されることがあります。
・全国健康保険協会(協会けんぽ)令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)
・日本年金機構 保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)
・厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「令和4年度雇用保険料率」
国土交通省の見積書の書き方例
国土交通省の見積書の作成例は以下の形式になっています。
注意する点として、工事費と法定福利費の合計に消費税がかかることです。
(参照:国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書」について)
労務比率を用いた見積書例
法定福利費は、労務費に保険料率をかけて算出しますが、労務費が具体的に算出できない場合もあります。
その場合は、平均労務費に事業主負担分の保険料率の合計をかけて算出します。
*平均的な労務費率の根拠:参照(厚生労働省「労務費率表」)
東京都の保険料率一覧(2022年7月現在)
現場事務員が注意する点
さて、現場事務員が見積書をチェックする際に注意する点をあげてみましょう。
チェック項目
私は、以下の4つに気をつけています。
- 法定福利費が単独項目として表記されているか。
工事費の合計を「法定福利費込」にしていないこと。 - 法定福利費の保険料率が極端に異なっていないか。
- 法定福利費を含む合計から値引きをしていないか。
- 法定福利費が消費税の対象になっているか。
消費税について質問されたらこう答えよう!
よく質問されるのは、法定福利費に消費税がかかるのか?ということです。
そんな時は、こんな風に答えると理解していただけますよ!
社会保険料って非課税でしょ?なんで消費税の対象になるの?
社会保険料の納付は消費税の非課税取引ですが、建築見積の場合は工事に対する対価だから消費税がかかるんですよ〜。
今後も、社会保険加入義務の強化が進むと思われます。
それに伴い、国からのガイドラインや対策が都度更新されているので、気をつけておきましょう。
また、法定福利費を明示した見積書の作成手順の周知に努めましょう!